出版および出版関連産業ではたらく人々の労働組合連合体

出版産業

【講演録】アマゾンと日本の出版流通

業界三者の利害は一致しない
   街の本屋が閉店するとなると、新聞などは必ず「アマゾンの進出があって」と書くわけですが、街の本屋を壊しているのは、ほんとうにアマゾンなんだろうか。相関関係と因果関係を混同していないだろうか。
 確かに書籍の2割をアマゾンが売っている時代ですから、アマゾンの出現は街の本屋にとってダメージが大きいだろうと思いがちですが、私は必ずしもそうではないと考えています。アマソンの日本進出と同時に起きたのは大店法の改悪です。旧大店法を撤廃して、大店立地法になったわけです。言い換えれば大型店出店のための規制緩和です。このときに池袋のジュンク堂書店も1000坪から2000坪になりました。この大店法の改悪を契機に、全国の中規模都市にメガストアが次々とできました。私の出身は北海道の旭川市ですが、人口30万人の街に1000坪の大規模店が、ジュンク堂とコーチャンフォーの2店あります。30万人しかいない街にメガ書店が2つなんて、20世紀には考えられないことでした。老舗の富貴堂書店は中心部の本店を閉じて郊外に展開し、私が高校生のころ毎日のように立ち読みしていたブックス平和は倒産してしまいました。全国いたるところで似たようなことが起きています。街の本屋をアマゾンが壊しているかどうかはわからないけれども、メガストアと書店チェーンが、街の本屋をどんどん破壊しているのは確かです。しかもリブロやブックファーストなど、書店チェーンがどんどん取次の傘下になっています。取次が街の本屋を破壊するという逆説的現象が起きています。
 もうひとつ街の書店にとって、確実にボディブローになっているのは、駅ナカ書店です。駅の改札内外の駅構内、あるいはそれに連続した施設にどんどん書店ができるようになりました。京王線の久我山に啓文堂書店が進出するにあたって、地元の書店が出店をやめさせようと訴訟を起こしました。しかし裁判では街の本屋が負けてしまった。必ずしも鉄道系資本の書店とは限らないけれども、既存の街の書店を破壊し、さらには商店街を破壊しています。にもかかわらず、出版社・取次による配本は、規模と立地と実績に基づいたものですから、小さな書店には対抗策がない。街の書店は疲弊するばかりです。アマゾンの進出と街の本屋の消滅に、相関関係はあっても因果関係は弱いと思います。
 中堅総合取次の栗田、大阪屋、太洋社が相次いで瓦解しました。アマゾンが登場したことによってはっきりしたのは、業界三者――あるいは読者・著者を含めて五者といってもいいかもしれませんが――の利害は一致しないということです。一致する部分もあるけれども、それは全体の一部分でしかない。まず、書店の脱取次依存が進んでいます。先程の誠光社のように取次に頼らずに、あるいは取次を使うにしてもパターン配本に頼らずに「注文だけ」にする書店がどんどん増えている。あるいは書店の脱雑誌依存。日本の出版流通は雑誌・コミックによって支えられてきたわけですが、その雑誌依存体質から脱却しようとしている書店が増えています。
 脱書籍・雑誌依存の書店というパラドクシカルな現象も起きています。典型的なのは、ヴィレッジヴァンガードとか、大阪のスタンダードブックストア。つまり「書店」という看板を掲げながら、書籍・雑誌に依存しない経営をしていこうとしている。象徴的なのは、丸の内KITTEのマルノウチリーディングスタイルです。あそこは大阪屋の関係会社による経営でありながら、フロアの3分の1はカフェでもう3分の1は雑貨。書籍は残りの3分の1だけです。その経営を取次がやるということは、書店の経営は書籍・雑誌だけではもたないと取次が判断しているも同然です。そういう流れが21世紀になって進んできた。
 一方で出版社の脱書店依存も進んでいます。例えば、今日の講演を繋いでいただいたのは、東洋経済新報社労組の方ですが、『週刊東洋経済』の3分の1は読者直販です。『週刊ダイヤモンド』も同様。『日経ビジネス』はもともと直販から始まりましたから、もっと直販比率が高い。こうしたビシネス誌を中心に、書店・取次抜きで読者に直販する雑誌が増えています。直販ですから再販の対象にならないので、長期契約したときのディスカウント額を大きくしています。書店にとっては癪の種です。
 出版社の脱取次・脱書店もどんどん進んでいます。ディスカバー21のように、取次を使わない書店との直取引で30万部、40万部のヒットをどんどん出している出版社もあります。私の『小さな出版社のつくり方』に登場する出版社の半分以上は、トーハン・日販を使っていません。自分たちで自主的に流通させている。
 先ほども少し触れたように、取次による書店の子会社化・系列化も、ものすごい勢いで進んでいます。おそらくあと10年から20年もすると、インディペンデントな書店グループはほとんど残らないんじゃないかと思えます。ナショナルチェーンでは紀伊國屋書店ぐらい、リージョナルチェーンでは有隣堂や今井書店グループなどいくつか残るでしょうが、なにしろ八重洲ブックセンターがトーハン傘下になるような時代です。書店チェーンが取次のシェア争いとマネーゲームの道具になってしまった。かつていわれた「業界三位一体」なんて、まったく有名無実化してしまいました。それぞれが自分たちの利益の最大化へ向かってビジネスを進めていく時代です。  
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