カテゴリー: 出版産業

  • 第46回出版研究集会 出版産業 新生の時代へ

    第46回出版研究集会 出版産業 新生の時代へ

     

    第46回出版研究集会
      2019年9月27日(金)~ 11月1日(金)
    
    出版産業 新生の時代へ
    
    
    チラシPDF:20190927_syuppan_kenkyu

     

    全体会 日時:2019年9月27日(金)18:30~20:30/会場:文京区民センター2A会議室
    
    

    「『ちいさな本』の世界を旅してーブックイベント、地域の本屋、リトルプレス、アーカイブー」
    講師:南陀楼(なんだろう)綾(あや)繁(しげ)さん(ライター・編集者、「不忍ブックストリート」代表、「ヒトハコ」編集発行人)
    聞き手:樋口 聡(フリーライター/出版・産業対策部事務局長)ほか

    →『本とコンピュータ』編集長から不忍ブックストリート、そしてヒトハコ古本市へ。ミニマムでローカルな本と人との出会いを求めて全国を飛び回る編集者、南陀楼綾繁さんをお迎えする。デジタルもアナログも、稀書もミニコミも古本も、コンテンツ産業の全フェーズを観察した経験から出版産業への愛憎を語っていただくとともに、これからの出版界のあり方を議論する。

     

    分科会 時間:18:30~20:30  会場:出版労連会議室

    ①10/4(金)「Society 5.0 と教育・教科書-その影響は? 教科書・教材はどうなる?-」(仮)
    講師・坂本 旬さん(法政大学キャリアデザイン学部教授)
    →「Society 5.0」とは何か? 政府は「Society 5.0 の実現」をスローガンに、生産の在り方だけでなく社会の在り方まで大きく変えようとしている。Society 5.0 とは、もともと経済界の要求に端を発した成長戦略だが、文科省をはじめ政府は教育にまで範囲を広げようとしている。そこでは「学びの(公正な)個別最適化」が盛んに謳われ、経済界の求める「人材の育成」がめざされる。

     

    ②10/11(金)「コンビニ誌から男の娘(こ)まで-アダルトメディアの行方-」
    講師・井戸隆明さん(株式会社パブセンス)
    →コンビニ誌の消滅、読者層の高齢化によって紙のアダルトメディアは消滅へと向かっている。そうした中で配信・ダウンロード販売などネットへの移行やコア層をターゲットにした展開など新たな動きも始まっている。今回は、マニア誌を経て会社を設立し各種メディアに携わる井戸さんにアダルトメディアの現状から、井戸さんが情熱を注ぐ「男の娘」をめぐる状況まで語っていただく。

     

    ③10/18(金)「出版流通の危機とアマゾン」
    講師・高須次郎さん(緑風出版代表/日本出版者協議会相談役)
    →「神にも擬せられるほどの力を持つ」といわれるグローバルIT企業GAFAのなかの2強、グーグル、アマゾンに戦いを挑んできた高須次郎氏を招く。バックオーダー中止、直取引の拡大、買い切り制=売れ残りの値引きなどのアマゾンの攻勢。「出版敗戦前夜」ともされる状況で、それを乗り越える道を探る。あわせて取次の物流協業についても深めたい。

     

    ④10/25(金)「わかっているようでわかっていない再販制度」
    講師・斎藤健司さん(出版再販研究委員会副委員長/金の星社社長)
    →今年はゼロから教えます! 再販制が出版産業を支えてきたことは事実。そして現に再販制のもとで産業が回っていることも事実。しかし一方で、出版労働者のなかにも再販制についての知識が十分でなかったり、乏しい人が少なくないことも現実。ひと目でわかる再販商品と非再販商品の見分け方、など再販制を学び直すチャンス。

     

    ⑤11/1(金)「図書館利用者のプライバシー保護」
    講師・松井正英さん(日本図書館協会・図書館の自由委員会)
    →読書は憲法19条(思想及び良心の自由)と密接な関係にあり、図書館利用者のプライバシー保護(貸出履歴の削除など)は重要である。一方、貸出履歴の有効活用の考えや貸出履歴開示の利用者の要望もあり、児童・生徒の貸出履歴と読書指導のあり方の問題もある。これらの問題を、図書館を扱った報道や表現の実例もあげながら考えていく。
    *タイトルは変わる場合があります。

     

    【参加費】1,000円(全体会+全分科会の通し券;全体会を除く1分科会のみ参加の場合は500円)
    【主 催】出版労連・第46回出版研究集会実行委員会 113-0033東京都文京区本郷4-37-18 いろは本郷ビル2階 TEL03-3816-2911

  • 第133回定期大会 特別決議「出版に働く私たちは、出版、表現の自由を侵す改憲に反対します」

    第133回定期大会 特別決議「出版に働く私たちは、出版、表現の自由を侵す改憲に反対します」

    出版に働く私たちは、出版、表現の自由を侵す改憲に反対します

     

    PDF版:190712_tokubetuketsugi_hyougen

     

    言論、出版、表現、報道の自由の規制がエスカレートしています。
    かつては書けたこと、表現できたこと、放送できたこと、人前で話せたことが、今はできなくなってきていないでしょうか。
    官房長官が、特定の新聞記者の質問を敵視しています。
    防衛省が、フリージャーナリストの記者会見出席を阻んでいます。
    ストーカー行為を規制するための改正東京都迷惑防止条例が、市民の言論、表現の自由、知る権利、報道の自由を規制したい人たちの武器になろうとしています。
    森友学園問題、加計学園問題で隠蔽と詭弁に終始した首相は、2001年のNHK番組改変問題以来、政府・与党中枢が意に沿わない報道への介入・干渉を繰り返し、それが容認されてきました。2010年代には特定秘密保護法、「共謀罪」法※を相次いで強行採決し、ついには言論・表現・出版の自由の寄って立つ根拠である憲法21条をも変えてしまおうと目論んでいます。自民党改憲草案は、公の秩序のためには出版、表現の自由は思いのままに制限できるとしています。出版、表現の自由は私たちの到達した、侵すことのできない永久の権利です。改憲で出版、表現の自由を規制し、統制しようとする動きには断固、反対です。
    思ったことを口にするのが憚(はばか)られる一方で、虚偽(フェイク)や憎悪(ヘイト)が大手を振って闊歩する時代になってきました。それらを質(ただ)し、真実を伝えることがマスコミ本来の役割であるはずですが、この状況に沈黙をもって加担し、もっぱら政府発表ばかりを伝えようとする現実があります。さらに与党は、豊富な資金や人脈を使って、広告をも意のままに操ろうとしています。
    そこに拍車をかけるのが、忖度と同調圧力です。表現する者、メディアに働く者が生きにくい、仕事をしにくい世の中になっていはしないでしょうか。内省と自戒も込めて、そう訴えます。
    言葉の重みが限りなく軽んじられている今も、あらためて言葉の力を取り戻す、ねばり強い動きが続けられています。FIGHT FOR TRUTHを叫んだ今年3月14日の官邸前行動は、表現者やジャーナリスト自身が声をあげる画期となりました。
    メディア産業、とりわけ出版をはじめとするコンテンツ産業は、多様性をかけがえのない源泉としています。萎縮し、同調圧力に屈してこの多様性を放棄することは、産業の消滅に繋がります。私たちはこれからも、多様性を手放さず、黙りも阿(おもね)りもせず、言葉の力を信じて、自らの良心と職能に忠実に行動していきましょう。

    以上、決議します。

    2019年7月12日
    日本出版労働組合連合会  第133回定期大会

    ※「特定秘密の保護に関する法律」(2013年)
    「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律等の一部を改正する法律」(2017年)

  • 第133回定期大会 特別決議「ハラスメント根絶宣言」

    ハラスメント根絶宣言

     

    PDF版:190712_tokubetuketsugi_harassment

     

    本日、私たちは、仕事の世界における「ハラスメントの根絶」を掲げ、議論してきました。人権侵害以外のなにものでもないハラスメントの根絶について、2019年というこの時代においても新たな課題として声を上げなければならない現実に、その根の深さを感じます。しかし、ハラスメントに声を上げ、対抗する大きなうねりはきています。

    去る6月21日、ILO(国際労働機関)の第108回総会において、「仕事の世界での暴力とハラスメントを禁止する条約」が採択されました。これは、一昨年アメリカのハリウッドでおきたセクハラの告発を契機に、全世界に広まった#Me Tooの運動とそれに呼応した、見て見ぬふりをすることを終わりにする「タイムズ・アップ」運動の成果だと言われています。世界的には、職場における暴力とハラスメント禁止が大きな流れとなっているのです。
    日本国内においても、元財務事務次官による女性記者へのセクハラが契機となって#Me Too #With Youの運動へと広がりをみせました。出版労連も、メディアや表現の場で働く労働者の組合で組織されたMIC(日本マスコミ文化情報労組会議)などとともに、ハラスメントに関する学習会、院内集会、市民参加フォーラム、国会前行動などを展開し、あらゆるハラスメントの根絶を求める活動を続けてきました。その結果、まだ十分とは言えない内容ながらも、5月にパワハラ防止法が成立しました。経営側の抵抗・慎重論以上の私たち世論の高まりに、目をつぶることは出来ず、政府としても取り組まざるを得ない状況だと判断したからではないでしょうか。

    では、私たちそれぞれの仕事の世界で、ハラスメント改善の兆しは見えているでしょうか。有休を取得するのに嫌みを言われていませんか。上司から恫喝(どうかつ)されていませんか。取引先から不当な要求をされていませんか。不当な配転を命じられていませんか。強い言葉での指示や理不尽な業務命令はありませんか? 賃金に直結する短時間勤務の強制を受けていませんか? あなたでなくても、あなたの隣人が嫌がらせをされていませんか? ハラスメント根絶に向けての行動を掲げながらも、残念ながら職場でのハラスメントを解決することは簡単なことではありません。立場の優位性を背景に行われる言動・行為であるために、弱い立場からの声は上げにくく、ハラスメントそのものを顕在化させることを難しくさせているからです。また長時間労働や人員不足などが絡んでくると、ハラスメント構造が見えにくくなる問題もあります。

    しかし、私たち労働組合の基本は相互扶助です。人権侵害は取り組むべき最重要課題です。いかなるハラスメントも曖昧にはせず、その芽を小さいうちに摘んでいく不断の努力が求められます。〈見て見ぬふりをすることを終わりにする〉この世界の流れと手を取り、歩調を合わせ、困難を厭(いと)わず、ハラスメント根絶に向けて取り組みましょう。
    同時に、私たち労働組合も“組織”であるかぎり、組合内部にハラスメントを内包していることを自覚しましょう。ひとりひとりが自らの置かれた立場の優位性を自覚し、相互にフラットな立場であろうとする意思をもって、ハラスメントを生まない組織に作りあげていきましょう。

    以上、宣言します。

    2019年7月12日
    日本出版労働組合連合会 第133回定期大会

  • 第133回定期大会・大会宣言

    大会宣言

     

    PDF版:190712_taikaiketsugi

     

    私たちはこの第133回定期大会で「仕事の力をいかし、言論・出版・表現の自由を次の世代に手渡そう! 60年の積み重ねをいかし、『ハラスメント根絶宣言』をすべての職場で実現しよう!」をスローガンとして掲げるなか、2020年度の運動方針案について討議してきました。
    出版労連は昨年3月に結成60周年を迎え、昨年の定期大会では「労働組合の意味を再確認しながら私たち自身の未来へつなぐ運動を展開していきましょう」と確認し合いました。この1年の運動をふり返り、未来への展望を自ら切り開いていくとりくみをさらに進めていきましょう。
    この1~2年、「働き方改革」が話題になりました。昨年6月に成立した関連法は今年4月以降、順次施行されていきますが、私たち働く者が「職場の主人公」となって、働きやすい職場づくりやワーク・ライフ・バランスの改善へのとりくみをもっと強めていきましょう。
    また、ハラスメントが社会問題としてクローズアップされる中で、出版労連も19春闘で「ハラスメント根絶宣言」にとりくみました。今年5月29日には内容的にはきわめて不十分ながら「パワハラ防止関連法」が成立し、さらに、6月21日にはILO(国際労働機関)の年次総会において「仕事の世界における暴力とハラスメント」に関する条約および勧告が採択され、これに日本政府も賛成しました。ハラスメントは人権侵害であることを再確認し、これらの情勢をテコに、ハラスメント根絶に向けた働きかけを強めていきましょう。

    本日の定期大会では、11名の代議員、10名の特別代議員から発言がありました。
    ・単組のとりくみとして、不当配転とのたたかい、不当労働行為のたたかいと和解後のとりくみ、賃金カットの回復に向けたとりくみ、導入されようとしている成果主義の人事評価制度へのとりくみ、ハラスメント防止に向けたとりくみ、定年延長の要求議論などの報告や紹介がなされました。また、取次職場の劣悪な労働環境の紹介もされました。
    ・地協活動では、いろいろな事例が聞けて情報共有ができるメリットの報告や参加の呼びかけがありました。出版青年ネットワークでは、企業の枠を超えて交流を深めている報告がありました。
    ・知る権利が脅かされている危機感が共有された経験や、秘密保護法関連として情報隠しが行われている実態、「Society5.0」の危うさと問題点、放射線教育の実態などの報告がありました。

    本日の討論では、今直面している厳しい産業状況の中で起きている労働環境の問題、労使関係の問題、ハラスメントの問題についての問題提起もありました。組合の継承問題についても待ったなしの課題です。いずれも、課題は大きく容易に解決できるものではありませんが、本日の討議の中で問題を共有し、ともに努力し合うことを確認しました。
    労働組合の基本は働くものどうしの助け合いです。今、こうして私たちは出版労連に集い、知恵を出し合い、助け合いの仕組みを作り上げています。一方で、社会そのものが分断の方向に進んできています。立場や考えが違っても相手と理解し合うことがなければ対立は深まるばかりです。私たち労働組合はもっと議論を深め、発信をし、もっと多くの人々とつながって、よりよい社会をつくっていかなければなりません。言論・出版・表現の自由を守り、成熟した民主主義を根付かせ、出版文化を支える平和でより自由な社会を目指して、ともに手を携え前に進んでいこうではありませんか。

    以上、宣言します。
    2019年7月12日
    日本出版労働組合連合会 第133回定期大会

  • 「フリーランス・芸能関係者へのハラスメント実態アンケート」にご協力ください

    日本俳優連合、プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会、出版ネッツも参加するMICフリーランス連絡会の呼びかけで、ハラスメントに関するアンケートを行っています。
    私たちの声を厚生労働省に届け、厚生労働大臣の指針に適切なハラスメント防止・対策が定められるよう求めていきます。以下のURLにアクセスし、アンケートへの回答をお願いします(自由回答欄を除けば、5~10分ほどで回答できます)。
    また、出版ネッツの組合員以外にも広めるため、自身が活用しているSNS(Facebook、Twitter、LINEなど)での拡散もお願いします。

     

    ■調査対象:日本国内で働いた経験のあるフリーランス(個人事業主、法人経営者、委託就労者、すきまワーカー、副業従事者を含む)
    ※業種・性別は問いません
    ■アンケート回答期間:2019年7月16日~8月20日
    ■集計結果公表:8月末~9月初旬(予定)
    ■サイトURL:https://forms.gle/3W45Ps4HuVtUpbCa6
    【問い合わせ先】 no-hara@freelance-jp.org
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  • 出版研究室を開設

    出版研究室を開設

    出版研究室独自のウェブサイトを開設して、半年が過ぎました。「不況」から「崩壊の危機」と穏やかではない表現をされる出版産業ですが、今や「終焉」とも一部では言われています。この間、出版業界内外の方々から貴重なご意見を頂戴しました。少しでも活かせていければいいなと思っています。今後ともご活用のほどよろしくお願いします。
    *右をクリック→ syukken.syuppan.net

  • 【講演録】アマゾンと日本の出版流通

    【講演録】アマゾンと日本の出版流通

    出版労連では毎年、出版産業が抱える課題を探り、その時々の到達を明らかにするために、出版研究集会を開催しています。

    今年9月22日よりスタートする第44回出版研究集会全体会の講師のお一人である永江朗さんには、昨年10月に催された第43回出版研究集会分科会でもご講演いただきました。その講演録を、永江さんから許可を得て公開します。

    なお、無断転載はお断りいたします。

    出版労連・出版研究集会実行委員会

     

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    第43回出版研究集会第2分科会講演録

     

    アマゾンと日本の出版流通―快進撃の秘密と出版産業の未来―

     

    【講演】永江 朗さん(フリーライター)

    2016年10月7日(金)出版労連会議室

     

     先日、『小さな出版社の作り方』という本を、小さな出版社である猿江商會から出しました。今日はその猿江商會の古川聡彦社長にも会場に来ていただいています。古川さんは新卒で光文社に入り、大修館書店を経て、猿江商會を興しました。それもアマゾンと関係があるといえます。なぜなら、アマゾンとその周囲に起きていることに象徴される出版流通の変化が、小さな出版社を興しやすくしている側面があるからです。出版不況と言われ、構造不況業種だ、市場縮小だと言われつつも、出版社に入りたいという学生も大勢います。相変わらず採用試験の競争率は高い。しかし私は学生たちに、「出版社の社員になるよりも、出版社の社長になる方がはるかに楽だよ」と言っています。

     

     本題に入る前に、アマゾンについて語るとき気をつけたい二、三の事柄について。「アマゾンについて……」となると、なぜか出版業界人は冷静さを失ってしまいます。まるでスイッチが入ったように。リベラルだった人が、アマゾンの話になるとナショナリストになったり。いまにも“鬼畜米英!”などと言い出しかねない勢いです。もっとも、それは私自身も多少自覚するところでもあるのです。アマゾンを考える時、バイアスがかからないように、冷静に考えるようにと常々思っています。
     
     でも、アマゾンを語るときのバイアスは、危機感のあらわれでもある。日本の出版界にいると、「何かが破壊されようとしている」「何かが奪われようとしている」と感じます。アマゾンの創業者でありCEOのジェフ・ベゾスは、裸一貫からはじめていまや世界第2位の大富豪です。本屋のオヤジが世界第2位の大富豪になるなんて、とても日本の出版界では考えられないことです。しかも、それはわずか20年ほどで起きたこと。考えられないようなことが起きると、私たちはつい、なんでもかんでもそのせいにしてしまいたくなります。出版界のあれが悪いのもこれが悪いのも、みんなアマゾンのせい、と。

     ひと昔前に、何かがあるとなんでもブックオフのせいにしてみたり、取次のせいにしてみたりしたのと似ています。最近なら図書館のせいとか。自分が置かれている状況がよくないと、つい自分以外の何かのせいにしたくなる。アマゾンについて考えるとき、気をつけておきたいことです。

     我々は保守的で、いつも変化を恐れている。とりわけ出版業界は変化を恐れる業界だと思います。それは、ビジネスの仕組みを含めて、今まであまり変化を経験してこなかったからでしょう。だから環境が変化しようとすると、つい恐怖が先に立ってしまう。

     そこで、「アマゾンは書店である」ということを前提にして考えていきましょう。正体不明のモンスターではなくて、あれも書店なんだ、書店のひとつの形態なんだということから考えないと、アマゾンがなぜ成功したのかわからない。

     もうひとつ、アマゾンはアメリカの企業であるということも、よく考えておかなくてはならない。日本とアメリカとでは商習慣が違います。再販制の有無だけではなくて、ビジネスのやり方も考え方も違います。出版業界にいる人の気持ちのあり方から何からすべて違います。アメリカだけでなく、アジアでも、南米でも、ヨーロッパでも、国によって地域によって、出版産業のあり方はそれぞれ違います。海外から見れば、むしろ日本のほうが特殊です。特殊な日本にいる我々は、「自分は当たり前だ」と思っているので、アマゾンが異常に見えてしまう……ということもあり得ます。

     違いがあるということについて、善悪で考えると判断を誤ってしまいます。「自分は正しい」と。自分についてだけではありません。相関関係と因果関係を混同しないように気をつけなければなりません。アマゾンが日本に上陸した21世紀の初めというのは、出版界のみならず世界中のメディアにとって大転換期でした。人間と情報との関係が大きく変わりました。それによって起きたことと、アマゾンによって起きたことを混同しないように気をつけなければならない。同時に、時代の大きな変化の影響からは、アマゾンもまた逃れられないのだということも忘れてはいけないでしょう。

     

    出版社・取次からむしり取れ

     

     先に結論を申し上げておきます。アマゾンが日本の出版通通を変えたし、これからも変えるでしょう。どのような変化かというと、出版流通におけるヘゲモニーを、これまでの《出版社と取次》から、《書店と読者》へと大きくシフトするだろうということです。

     戦後、出版流通システムが完成してから半世紀以上の間、出版流通で大きな力を持っていたのは、出版社と取次でした。出版社自身がそう自覚しているかどうかは別ですが。価格決定権を持ち、配本の主導権を握っているのは出版社と取次でした。ところがアマゾンに関してはそれが通じない。価格決定権は再販契約のもとで出版社が持っていますが、取引条件について、アマゾンは自社に有利になるよう出版社に迫っています。強大な販売力を背景に。こんなに強い小売店は、これまで日本の出版界にありませんでした。これからは、流通のヘゲモニーが小売店に移るという大きな変化に耐えられる出版社・出版業界人と、耐えられない出版社・出版業界人とに分かれるでしょう。しかしこれは、アマゾン以外の小売店にとって、「吉」と出るかもしれない。私は書店界の人びとに、「今こそ書店はアマゾンと共闘せよ。共闘して利益配分を出版社・取次からむしり取れ」と言いたい。それは、これまで出版物の利益配分が、出版社と書店とではあまりにも違いすぎたからです。

     山崎ナオコーラさんの作品に『昼田とハッコウ』という長編小説があります。吉祥寺に実在する書店、ブックス・ルーエをモデルにしていて、小説では「アロワナ書店」となっています。書店内部のようすがリアルに描かれています。というのも、ナオコーラさんの家族が書店に勤務しているので、事情がよくわかっているのです。ナオコーラさんに、「なぜ書店と書店経営者を主人公にした小説を書こうと思ったのか」と質問しました。すると彼女は「現在のリアルなワーキングプアを描きたかった」と答えました。登場人物である書店員の月収は20万円に満たない。実際、書店の労働現場は薄給です。ワーキングプアといってもいいほど。しかし、流通のヘゲモニーが小売店に移ることによって、こうした劣悪な待遇も変わっていく可能性があります。

     ここでひとつ重要なのは、アマゾンの出現とは関係なく、日本の出版産業を支えてきた取次システムが崩壊しつつあるという現実です。日本の取次システムは、雑誌の流通に最適化しており、雑誌の流通に書籍の流通が載っかるようなかたちでできています。ところが雑誌とコミックのビジネスが成り立たなくなりつつある。そこに依存してきた日本の取次システムはもう崩壊してしまった。そこから考えていかなければならない……というのが、今日の結論です。

  • 「消費税アンケート調査」報告を公表

    出版労連加盟のクリエイターのユニオン、出版ネッツが行った「消費税アンケート調査」報告が完成し、出版ネッツ・公式サイトにUPされました。出版関連の取引において、消費税が適正に転嫁されなかったり、法律は知っていても適正転嫁を言い出しにくい実態がこの調査から浮かびました。同サイトでは、2015年に実施・公開した「交通費アンケート調査」報告と併せて見られるよう、「フリーランス実態調査報告」のページを新設しました。出版フリーランスもちろん、出版社や編集・校正プロダクション等、出版界で働いている多くの皆さんに役立つ内容となっています。

    http://union-nets.org/?p=4627