政府による日本学術会議会員の任命除外に抗議し、撤回を求める声明
日本出版労働組合連合会 中央執行委員会
PDF:201007学術会議声明
菅義偉首相は、2020年9月28日、日本学術会議第25期の発足にあたり、同会議が推薦した新会員候補105名のうち、6名を除外し、任命しませんでした。また政府は、その根拠と理由、および経緯を適切に説明していません。日本学術会議法を恣意的に解釈した任命除外は、同法に規定された同会議の独立性を脅かし、さらには日本国憲法の保障する「学問の自由」(第23条)を侵害するものであり、法治国家において当然遵守・履行されなければならない既存の法や民主的手続きすら無視し、「政権の都合」を優先した暴挙といわざるをえません。
日本学術会議は、1949年、第二次世界大戦での反省をふまえ、科学が文化国家の基礎であるという確信の下、行政、産業及び国民生活に科学を反映、浸透させることを目的として、政府から独立して職務を行う「特別の機関」として設立されました。会員選任については、長らく研究者による投票によっていましたが、1984年に学術団体による推薦制、2005年に同会議が「優れた研究または業績がある科学者のうちから会員候補者を選考し、首相に推薦するものとする」と変更されました。1983年、同会議会員の選出制度が投票から推薦制度に変更となった際、政府は、国会で「推薦された者をそのまま任命する」と答弁しています。今回の任命除外は、この国会答弁と食い違うものであり、同会議の職務の独立性をふみにじるものです。「学問の自由」は、研究と教育の自由というだけではありません。この基盤となる大学やそれに準ずる学術研究団体の運営は、国家から干渉を受けないという制度的自律性をも意味します。だからこそ、同会議は政府から独立して職務を行う「特別の機関」なのであり、今回の政府の任命除外は、「学問の自由」の侵害となるのです。
今回、推薦した候補者のうち任命が除外された6名の中には、「戦争法」(安全保障関連法)や「共謀罪」法(組織的犯罪処罰法)の問題点を指摘し、批判してきた研究者が複数名含まれていました。政府は、その理由を明らかにしていませんが、「政権批判をすればこのようなことになるのだ」という菅政権の強権的なメッセージと受け止めざるをえません。
公権力による、政府と異なる意見を表明する一部の研究者に対する選別や排除は、研究者全体の発言や研究テーマの選択に萎縮をもたらすだけでなく、社会全体をも萎縮させかねません。さらに、今回の任命除外は、「学問の自由」だけでなく、「法の下の平等」(第14条)、「思想及び良心の自由」(第19条)、「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由」(第21条)の侵害にもつながりかねません。このままでは、公権力による抑圧と統制が、研究者の自律した研究活動だけでなく、社会全体の言論・出版・表現活動にもたらされることが懸念されます。
言論・出版・表現の自由は、民主主義社会の根幹であり、私たち出版関連産業に働くものにとって欠くことのできない産業基盤です。なによりも、研究者は、新たな学問的、文化的な価値、最新の科学的知見を読者に提供し、社会に議論を提起、醸成していくための大切なパートナーです。私たちの仕事を守り、発展させていくためにも、今回の任命除外を許すことはできません。
出版労連は、今回の任命除外について抗議し撤回を求めるとともに、首相が同会議の推薦通り、研究者の任命を行うことを強く求めます。