不当な異動と職務変更

弁護士:本田伊孝

 4月は異動の時期です。遠方に単身赴任を命じられたり、これまでやっていた仕事とは全く無縁な職務を命じられたり、こうした辞令は有効でしょうか。

今回は違法とされる異動・職務変更について述べます。

 異動・職務変更は、就業規則の人事異動条項が根拠として行われます。ただ、労働契約上、職務内容や勤務地を限定する合意がある場合には、経営者の配転命令権もその範囲に限定され、その範囲外の職種や勤務地への配転を命じることは許されません。たとえば、事務職から警備職への職務変更は無効とした裁判例があります。

 職務内容や勤務地を限定する合意が認められなかった場合、つぎに、配転命令が権利濫用になるかが判断されます。権利濫用になるか否かは、配転の業務上の必要性と配転によって労働者の受ける不利益の程度で判断されます。

 明治図書出版事件・裁判ではアトピー性皮膚炎の2人の子どもがいる共働きの労働者に対する東京から大阪への転勤命令が無効とされ、裁判所は「女性が仕事に就き、夫婦が共働きをし、子どもを産んでからも仕事を続けることは、今日の社会の状況、男女共同参画社会基本法の趣旨などに照らすと、共働き夫婦のうち、一方が自らの仕事を辞めることしかできない不利益を受け入れるべき『通常の不利益』とはもはや言えない」と判断しました。

「女性の就労」「育児介護」への配慮が求められる昨今、女性の就労や介護育児を困難にする異動は「違法」とするのが近時の裁判例の傾向です。