「固定残業代制」にだまされない!

弁護士:今泉義竜

「基本給25万円(残業代を含む)」「基本給20万円、残業手当5万円」というような「固定残業代制」をとっている会社があります。みなさまの会社はどうでしょうか?固定残業代制だから、いくら残業しても残業代は請求できないと思い込んでいる方もいるかもしれません。

 

 この「固定残業代制」を巡っては、裁判で様々な論争が繰り広げられてきましたが、現在においては、考え方がほぼ固まりつつあります。それは、以下の3つの条件が満たされて初めて有効な固定残業代制として認められる、というものです(テックジャパン事件・最高裁第一小法廷平成24年3月8日労働判例1060号の櫻井龍子裁判官補足意見)。

 

 その3つの条件とは…

①あらかじめ一定時間の残業手当が算入されていることが雇用契約上明確にされていること

②支給時に支給対象の時間外労働の時間数と残業手当の額が労働者に明示されていること

③あらかじめ定めた時間数を超えて残業が行われた場合にはその所定の支給日に別途上乗せして残業手当を支給する旨もあらかじめ明示されていること

 というものです。この③の条件(「清算合意」と言います)まで必要なのか、という点についてはまだ議論があるところですが、この最高裁判決後は、この③も必要とする裁判例が相次いでいるところです。

 

 つまり、「基本給○円、残業手当○円(○時間分の労働時間)、○時間を超えて残業が行われた場合には別途上乗せ支給する」ということが契約書などに明確に記載されていなければ、有効な「固定残業代制」とは認められないのです。

 有効な固定残業代制とは認められないということは、通常支払われる賃金とは別途残業代を請求することができることになります。

 インターネットでワ●ミの求人を見てみました。「【月収】242,326円(内訳)固定給:190,000円(基本給160,000円+みなし深夜勤務手当30,000円)、時間外勤務手当:52,326円(時間外勤務45時間)」とあります。時間外勤務手当の額と時間数が明示されてはいますが、「みなし深夜勤務手当」というものが、深夜残業何時間分にあたるのかが分かりません。また、45時間以上残業した場合の清算についての記載もありませんので、この記載だけを見ると問題があるように思われます。

 

 結論:「固定残業代制」を取っているように見える会社でも、日々の残業時間をしっかり記録として残しておいて、残業代を請求すべきですし、残業代不払いに対しては労基署への申告や弁護士への相談できっちり対処をしましょう。手書きのメモ、メール、パソコンのログ履歴などが労働時間を証明する有力な証拠になります。