安全保障3文書の閣議決定及び軍事費増大に関する出版労連見解

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2023年1月26日 第140回臨時大会 特別決議

安全保障3文書の閣議決定及び軍事費増大に関する出版労連見解

 

政府は、2022年12月16日、新たな「国家安全保障戦略」、「国家防衛戦略」及び「防衛力整備計画」(安全保障3文書)を閣議決定しました。これは、相手国の領域内にあるミサイル発射手段等を攻撃するための敵基地攻撃能力や、攻撃対象を「敵基地」以外に拡大することになりかねない、いわゆる「反撃能力」の保有を進めようというものです。そのために防衛費(軍事費)をGDP(国内総生産)比2%にまで増大させるとして、不足する財源を増税でまかなおうとしています。
このことについては、以下の疑問点や問題点が指摘できます。

 

1.本当に平和を守ることができるのか?

政府は敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有により「抑止力」を高めることが日本の安全に不可欠だと主張しています。しかし、本当に抑止力になるのでしょうか。日本が敵基地攻撃能力を保有し、軍事費をGDP比2%にまで増大させると、アメリカ、中国に次ぐ世界第3位の軍事大国になります。それは、周辺国からはどう見られるのでしょうか? 周辺国の緊張を高めることにつながり、「軍事対軍事」のさらなる軍拡競争につながり、安全保障上のリスクを高め,日本が戦争に巻き込まれることになるのではないでしょうか。

 

2.憲法や従来の政府見解との関係について何ら説明していない

今回の閣議決定は、「反撃能力」という名で敵基地攻撃能力の保有を進めることとしています。しかし憲法9条では、「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」と謳っています。政府は、「平生から他国を攻撃するような、攻撃的な脅威を与えるような兵器を持っているということは、憲法の趣旨とするところではない」(1959年3月19日政府答弁)との立場をとってきました。今回の閣議決定について、政府は戦争放棄を謳った憲法との関係および従来の政府見解との関係について、何ら説明していません。

 

3.手続き面で問題がある

今回の閣議決定は、昨年秋の臨時国会閉会後に行われました。政府自ら「戦後の安全保障政策の大転換」と言っていますが、そのような重大な問題について、国会で審議することもなく、1内閣の閣議だけで決めてしまうことは、国会軽視、立憲主義の否定と言わざるを得ません。

 

4.軍事費増額の財源を増税で賄おうとしている

大軍拡の財源について政府は、復興特別所得税の半分を軍事費に回す、「防衛力強化資金」の名目で医療機関の積立金やコロナ対策費の未使用分など医療にあてるべき予算を流用しようとしているなど、医療や暮らしの予算の流用・削減などを示しています。

さらに、2023年度政府予算案および「税制改正大綱」では、軍拡財源として復興特別所得税の流用を盛り込みました。5年間で43兆円もの大軍拡を進める初年度予算であり、2023年度分の軍事費だけでも6兆8,219億円と過去最大となっています。

未曽有の物価高で国民の暮らしを守り、日本経済を好循環させていくためには、賃上げ・ベアが社会的な要請となっている中、具体的な賃上げ政策を示すことなく軍事費を増大させていく、そのための財源を国民の負担に求めることについては、大いに疑問があります。NHKの世論調査(1月7~9日実施)では、軍事費増大のための増税について反対61%(賛成28%)となっています。

 

私たち出版労連は、平和と民主主義、言論・出版・表現の自由を守る立場でとりくみをすすめてきています。出版産業は平和であるからこそ成り立つ産業であり、戦争になると必ず言論・出版・表現の自由は侵害されてしまうからです。

第二次世界大戦中の日本では、戦争に反対する内容の雑誌、詩、小説などは発行が認められませんでした。また教科書は,「国定教科書」として戦争賛美の内容が記述され、「お国のために死ぬこと」を恐れない教育が行われました。ロシアによるウクライナ侵攻が行われている現在でも、ロシア政府による言論統制が行われています。

今回の閣議決定について、政府は「専守防衛に徹し、他国に脅威を与える軍事大国にはならない」としていますが、その根拠は何も示していません。今求められていることは、周辺国との緊張を高めるような政策を行うことよりも、友好関係を築き緊張を高めないようにする外交努力ではないでしょうか。

また、現在の教科書検定における検定基準では、政府の統一的な見解を記すことになっています。今回の閣議決定も批判的な記述ができなくなる懸念があるとともに、憲法とは矛盾する戦争肯定を教科書に記述することになってしまいます。

物価高が続いている状況の中、国の予算の使い方について、周辺国との緊張を高める軍事費増大に費やすのではなく、社会保障の充実や教育予算の拡充、物価高から生活を守るための施策~消費税減税・廃止、インボイス制度の中止など~に使うべきではないでしょうか。

 

2023年春闘においては、なによりもベアを獲得し、出版労連すべての組合員や労働者の生活防衛を図っていくことを私たちは確認しました。私たちの生活や仕事へ影響を及ぼしかねない、また「専守防衛」や憲法の戦争放棄・平和主義がないがしろにされかねない閣議決定については、白紙に戻し、通常国会でていねいかつ充分な審議を行い、どうしても必要であるならば、選挙で国民に信を問うべきではないでしょうか。

 

以上、決議します。

2023年1月26日

出版労連(日本出版労働組合連合会)

第140回臨時大会

 

PDF:230126tokubetsu-ketugi